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地方創生の施策アイデアに着火せよ|水上村Chakkathonに密着【Vol.2】

人口流出や少子高齢化問題など、地方特有の問題を抱えた町村は多く存在し、問題解決に追われている。
"霊峰市房山"、"日本三大急流の球磨川"という大自然に恵まれた熊本県球磨郡の水上村は、今まさに村の将来に関わる"人口減少"という問題に直面していた。
村をあげて県内外の移住定住の促進や若者の雇用創出などに力を注ぐ中、「水上村で企業誘致を実現させる」という一大プロジェクトが立ち上げられた。
このプロジェクトの重要なファーストステップとなる「水上村Chakkathon〜アイデアソン〜」が水上村で開催され、筆者はその様子を密着取材した。

アイデアに着火せよ|水上村Chakkathonの目的

2020年10月、水上村に村役場職員や観光協会、IT企業などが集い「水上村Chakkathon〜アイデアソン〜」が開催された。
Chakkathonとは、短時間で集中してアイデアを出し合うアイデアソンに、"アイデアに着火せよ"という想いが込められて誕生した造語である。
このChakkathonでは、「水上村を観光・スポーツ・ビジネスの拠点にして、企業ニーズを満たすためのアイデアを出し合う」という大きなテーマが掲げられ、「水上村で企業誘致を実現させる」という最終目的に向けたグループワークやプレゼンが2日間にわたり実施された。

地方創生の成功に繋がる鍵とは|グループワーク

水上村石倉交流施設で1日目のグループワークが行われ、筆者は水上村役場産業振興課・課長の川俣さん、トラックセッション代表の村上さんらが属するグループAを密着取材した。

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【グループA参加メンバー】
〜水上村役場・産業振興課〜
川俣課長
〜地域おこし協力隊〜
木村さん
〜MARUKU〜
小山代表
〜トラックセッション〜
村上代表
〜WEB TATE〜
長澤(筆者)
※上記の所属部署は2020年10月時点ものとなる。

自治体・地元企業・IT企業というさまざまな分野で活躍する者が手を取り合い、「水上村に足を運んでもらうために、企業ニーズにどう応えるか?」というテーマのもと、ディスカッションはスタートした。

企業誘致に至るまでのプロセスを大事にする

討議をする上でMARUKU代表の小山さんはこう話した。
小山さん:「企業誘致が前に出すぎないようにしなければならない。前に出すぎると大事なプロセスが抜けてしまう。」
また、水上村が抱える人口減少という問題の解決もこのディスカッションの中で重要視された。
小山さん:「長期決戦(プロジェクト)では、人口減少の歯止めをつくるタイミングを考える必要がある。」
水上村は、2060年には総人口950人を下回ると推測されており、人口流出を止める具体的な対策法は必要不可欠となる。
その具体的な対策はどんなものになるのか?各メンバーが水上村の現状に触れ、独自のアイデアを提案していった。

スカイヴィレッジが企業誘致の導線となる

水上村には、標高1,000mの陸上競技施設「水上スカイヴィレッジ」が存在する。
国内有数のクロスカントリー施設であるスカイヴィレッジは、多くの指導者や有名アスリートから評価されており、水上村の文化の象徴となっている。

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スカイヴィレッジを管理するのは、地元企業のトラックセッション。
トラックセッション代表の村上さんは、水上村のロケーションを活かしたスポーツイベントやアウトドアイベントが盛んなことに触れ、スカイヴィレッジが新たな観光客の流入や企業誘致の導線になると話した。
村上さん:「スポーツ・ワーケーション・ビジネスを掛け合わせた施策は、観光客を水上村に呼び込むヒントになる。スカイヴィレッジのイメージを変えて、カジュアルなブランディングをしていきたい。」
続いて産業振興課・課長の川俣さんが、水上村ならではの自然を活用した観光客誘致について語った。

心と身体を癒やす森林セラピーと美人の湯

川俣さん:「森林セラピーは働き方改革、雇用環境の改善の手段となる」
九州中央山脈の懐に抱かれた水上村には膨大な山林が存在し、その自然を活かした森林セラピーや温泉といったレジャーを楽しむことができる。

癒やし効果のある森林セラピー
水上村は村面積の90%以上が森林であり、その環境を活かした"森林セラピー"が実施されている。

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緑に包まれた森林の中で得られる"癒やし"は、ストレス解消、健康促進などの効果があり、健康マニアにはうってつけの観光スポットである。
しかし、その認知度はまだ低く活かしきれていないのが現状であり、新たな取り組みが必要だと川俣さんは話した。
川俣さん:「民宿、旅館などと連携した短期的なリモートワーク環境を企業に提供するという手もある」
地域おこし協力隊で活躍する木村さんは、水上村に存在する「美人の湯」やそのプロモーションについて語った。

心も身体も洗い流す美人の湯

木村さん:「"美人の湯"が世間に浸透していない。女性に興味を持ってもらうために水上村の四季の魅力をSNSでもっとアピールすることが大事。」

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実際に水上村に住む女性目線の意見はとても貴重で、男性陣もじっくりと木村さんの話に聞き入った。
木村さん:「水上の女性は東京ではなく愛知に出ることが多い。若い女性が水上にたくさん残ってほしい。」
水上村に若い女性が残ることで将来の出生率増加に繋がり、水上村の人口減少問題も解決に繋がると木村さんは話した。
"女性が暮らしやすい村"、それには子育て環境がとても重要になってくる。
川俣さんは、水上村の子育て支援が非常に充実していることを説明した。

水上村は子育て環境に優れた村

水上村には子育てに関するさまざまな支援や補助金が用意されており、ここ数年は出生率も増加傾向にある。
川俣さん:「出生率増加は住みやすい村になってきた証拠。これは積極的にアピールしたい。」
村上さん:「子育ての補助金はとても充実している。子どもの医療費や学校の定期代、そしてチャイルドシートにまで補助金があるのは驚いた。」
子どもとの豊かな暮らしをイメージできることは、企業誘致を行う上でとても魅力的なプラス要素となる。

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水上村に子育て環境が整っていることを効果的にアピールできるのは"Webサイト"であると川俣さんは話した。
水上村の行政のWebサイトは堅いイメージがあるため、より企業に関心を示してもらえる「差別化を図れる新たなWebサイトが必要」だと小山さんは提案した。

水上村のネガティブをポジティブに

討議が続く中で「水上村のネガティブを強みにしたい」という共通意識が芽生えた。
村民目線では、"山しかない"、"森しかない"というネガティブなイメージがあるが、来訪者はその霊峰市房山からなる美しい山脈の景観や、おいしい空気と水に水上村の魅力と価値を感じて心を惹かれる。
小山さん:「ネガティブを洗い流し、ポジティブにしたい企業をターゲットにする」
〜水上村だからこそ実現できる企業誘致とは何か?〜
この論点に対して村上さんは、別府市が自虐的なWebサイトによるPRで大成功を収めた例を挙げた。
村上さん:「"◯◯しかない"、という弱点を逆手に取ったアピールが有効になる」
ネガティブをポジティブに転換するというヒントから、数ある地方創生の取り組みの中で差別化を図れるある画期的なアイデアに"着火"した。

どうにでもしてくれ!水上村!|2030年に目を向けた実証実験の村づくり

村面積のほとんどを山林が占めるという山里の水上村。

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グループAは、水上村の「有り余る山林や土地を活用し、実証実験をしたい企業を誘致する」という、地方創生の新モデルとなり得る画期的なアイデアに辿り着いた。
小山さん:「"◯◯しかない"と自虐的になっている水上村と、実証実験を行う場所を必要としている企業がマッチする」
村全体を使った実証実験の村づくりは、まさにネガティブをポジティブに転換できる大きなチャンスとなる。
〜このアイデアは本当に実現できるものなのか?〜
アイデアの具現化における課題を洗い出し、ネクストアクションにどう繋げていくかの討議が進められた。

村民と企業の対等なコミュニケーションが必要

実証実験の村づくりは村全体を巻き込むことになるため、村民の理解は必ず必要になってくる。
〜果たして村長はこのアイデアをどう受け止めるのだろうか?〜
小山さん:「ハードルは高いが、成功すれば村全体のコミュニティ力は確実に上がる。村側は『企業に来ていただく』ではなく、対等な関係でコミュニケーションを図ることが大事。
小山さんは、村民と企業の向き合い方が大事になると話し、投げやりな施策ではなく、プロセスを大切にした上で慎重に取り組む必要があると話した。

地方創生の成功に必要となる予算の問題

村民が当たり前のように毎日見ている山林と畑は、都会の企業目線から見れば膨大な資源であり、自由に活用できるのはまさに夢のような話。

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しかし、実証実験の村づくりは"予算"という問題をクリアできなければ到底実現できるものではない。
川俣さん:「農地は小規模から大規模なものまで豊富にある。色んな実証実験ができるが、予算が下りるかどうかは分からない。
村をあげて実証実験の村づくりをすることは前代未聞となるため、望むような予算が下りない可能性もあることを川俣さんは示唆した。

実証実験の村づくりの事業モデルとは

実証実験の村づくりは2030年を見据えた施策となり、10年後の未来を想定したさまざまな課題をクリアする必要があると小山さんは話した。
小山さん:「AIの普及で失業した層を獲得しなければいけない。競争の中でより魅力的な村づくりが必要になる。」
実証実験の村づくりのモデルは、"スマート農業"、"買い物代行"、などが良い例となり、2030年にフィットした企業誘致を目指す形となる。

水上村の子育て支援の活かし方

討議の中で話題となった水上村の充実した子育て支援の数々。
川俣さんは「水上村の魅力である子育て支援を何かに活かしたい」と切実な思いで話した。
熊本県の地方創生プロジェクトに力を注いでいるMARUKU代表の小山さんは、子育て支援が手厚いという強みは、企業誘致のプロセスにおいて重要な役割を果たすと説明した。

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小山さん:「Iターン、Uターンを望む社員は、その場所を訪れて『ここに住みたい』と心を強く動かされるきっかけが必ずある。水上村に住みたいと思わせるために、子育て支援が手厚いというアピールが大事になってくる。
水上村ならではの強みを活かしたいという川俣さんの切実な思いは、プロジェクトのプロセスの中で叶えられるものとなった。

敢えて自虐風でエッジの効いたキャッチコピーでPRする

地方創生に力を貸してくれる企業を見つけるには、まず興味を惹かなければ何も始まらない。
村全体を使った実証実験の村づくりは、自虐に振り切ったエッジの効いたキャッチコピーが採用された。
「どうにでもしてくれ!水上村!2030年に目を向けた実証実験の村づくり」
一見投げやりに見えるが、中途半端な自虐アピールは逆効果になる可能性もある。
「強力な第一印象を与えるためにはこれだけ振り切った方が効果がある」という意見の一致から、このキャッチコピーを施策の看板とすることになった。
具体的なPRや施策について
「どうにでもしてくれ!水上村!」は、短期における地方創生の施策ではなく、2030年に目を向けた長期的な施策となる。
まずは、"自虐系デザインのWebサイト"でPRを行い、水上村の土地を使って実証実験を行いたい企業を募っていく。
そして、興味を示した企業に対して短期間でのワーケーション期間を設けて、実際に水上村に足を運んでもらい、その魅力や暮らしの快適さを体感してもらう。

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企業に水上村の山林や畑を活用して実証実験を実際に行なってもらい、村側はその様子をWebサイトや動画を通して全国に拡散することで、より多くの企業に関心を持ってもらうことが狙いとなる。
村側は、"移住費0円"などの企業がワーケーションしやすい待遇を整え、解決できない大きな課題に関しては、県外企業と連携することも必要になると小山さんは話した。
小山さん:「住居提供、情報提供などのマッチングを図りつつ、村民と企業で対等な立場でコミュニケーションを取っていく。」
この施策の中で最重要とされるのが、村側と企業側の意見が一致し、Win-Winになれる"マッチング"を実現させるというもの。
実証実験の村づくりが成功すれば水上村のコミュニティ力は格段に上がり、人口減少、雇用問題という課題の解決に繋がることは間違いない。

水上村Chakkathon〜アイデアソン〜1日目を終えて

のどかな山村の水上村で企業誘致を実現させるという最終目的へ向け、Chakkathon1日目は「水上村に足を運んでもらうために、企業ニーズにどう応えるか?」というテーマに沿って討議が行われた。
グループAは、"山しかない"、"森しかない"、という水上村のネガティブに着目し、有り余る自然を活かして実証実験を行いたい企業を誘致するというアイデアに着火した。
「どうにでもしてくれ!水上村!|2030年に目を向けた実証実験の村づくり」
この自虐に振り切ったアイデアは、村長の心に響くのだろうか?
地方創生の"水上モデル誕生"へ向け、Chakkathon2日目への期待が高まる。